ノートPCが普及し始めていた今から約20年前の2002年12月1日、なんと日本初の車載PCが誕生していたのをご存じだろうか? その名をADDZEST「Auto PC CADIAS(カディアス)」という。
手がけたのはカーオーディオ/カーナビメーカーであったクラリオン。そこから溯ること4年、1998年にはマイクロソフトと共同で世界初の車載PC「Auto PC」を北米、欧州向けに販売開始していた。
シトロエンにOEM供給されるなどプロジェクトは順調に進み、その進化型として開発されたのがカディアスだった。
本体は2DINサイズで7型のインダッシュ型ディスプレイを搭載しており、一見したところカーナビによく似ている。だがOSにはWindows CE for Automotiveを採用しており、専用ソフトのインストールやバージョンアップを行うことで機能の追加が可能だった。PCのようにユーザーの使い方に合わせたカスタマイズが行えるわけだ。
また、車外から情報を取り込めるように携帯電話を接続できる専用ポートやPCカード型の通信端末を組み込めるスロットなども内蔵していた。コントロールはタッチパネル、リモコンのほか音声認識も備えており、音声読み上げ機能も持つ。

▲ボディカラーもブラックではなく、インダッシュ型ディスプレイを搭載
注目の機能として据えられていたのは自宅などのPCとデータ共有ができることで、当時Windows PCにプリインストールされていたソフト「Outlook」のデータをカディアスに読み込むことでスケジュール管理やアドレスブックを利用したハンズフリー通話、メールの送受信などが行えた。通信速度が遅いため画像表示に時間はかかるものの、専用ブラウザでホームページの閲覧もできた。
そしてコンパクトフラッシュやメモリースティックなどのメモリーカードに収録したMP3/WMAファイルの音楽再生ができるメディアプレーヤーも搭載。まだまだCDが幅を利かせていた時代にメモリー内の圧縮音源を扱えるのもめずらしかった。

▲当時のカタログ。メールの送受信やハンズフリー通話にも対応
ナビ機能については今でいうところの「通信ナビ」で、接続した通信端末経由で地図や検索データを取得。とはいえ通信料が高かったり(現在のようなお得なデータプランはない)、表示レスポンスが良くなかったりしたため、付属CD-ROMの地図をPC上であらかじめ切り出して、メモリーカードに収録して使うという機能を備えていた。
先進的でマルチな性能を持つものの一般の人にはそれほど便利に感じられない機能が多いことや、カーナビやカーオーディオとして捉えると使い勝手が今ひとつだったこと、価格が35万4900円(税込)と高価だったことなどから、残念ながらカディアスはモデルチェンジを行うことなく数年で姿を消してしまった。
<取材・文/浜先秀彰>